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大阪地方裁判所 昭和47年(ワ)3517号 判決 1977年5月27日

原告

藤井建設株式会社

右代表者

藤井謙三

外二名

金岡茂樹

右三名訴訟代理人

阪口繁

外七名

被告

大阪府

右代表者知事

黒田了一

右訴訟代理人

俵正市

外一名

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実《省略》

理由

一<証拠>によれば、原告らの事業の内容およぴその所有する土地建物について次のとおりの事実が認められ、これに反する証拠はない。

(一)  原告藤井建設は、肩書地に本店を有し、従業員約四五名の建築請負業を営む会社であるが、昭和三八年四月二〇日ころ別紙目録(二)の(1)ないし(4)記載の土地を購入し、昭和三九年五月ころ右地上に同目録(5)記載の建物を建て、以来建設資材等の置場およぴその加工場として使用している。

(二)  原告清和包装は、肩書地に本店を有し、和気義弘が代表取締役を兼ねている和気紙器工業株式会社の一部門として日清製油株式会社製品の贈答用包装の事業を営む会社として昭和四三年春ころ設立され、同年七月ころにかけて別紙目録(三)の(1)記載の土地を購入し、同地上に建物を建て、その後増築して同目録(2)記載の建物としこれを右事業に使用していたが、昭和四八年三月から右土地の約二キロメートル北方にある京阪倉庫経営の倉庫の一部を賃料月額金六〇万円で賃借し、翌四九年まで同所において前記事業を行つた後、さらに日清製油株式会社の要望により同じく京阪倉庫経営の高槻倉庫に事業場を移転し、同所において事業を継続しており、従前の土地建物は前記和気紙器工業株式会社に賃料月額金二〇万円で賃貸し右会社の事業に使用させている。

(三)  原告前川工業所は、肩書地に本店を有し、粉砕機等の鉱山機械の製造を業とする会社であるが、昭和三九年三月六日別紙目録(四)の(1)(2)(3)記載の各土地を、昭和四二年一二月一一日同目録(4)記載の土地を購入し、右地上に昭和四二年九月同目録(5)記載の建物を建築して、従前の大阪市城東区放出所在の工場から同所へ移転し、昭和四三年二月同目録(6)記載の建物を建築し、右土地建物を右機械類の製造工場として使用している。

二原告らが本件私道を通行に利用していることは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、本件私道の位置および周辺地域の状況について次のとおりの事実が認められ、これを覆えすべき証拠はない。

本件私道に面する原告らの所有にかかる前記土地およぴその付近の位置関係は別紙第二図面記載のとおりであり、右土地の所在する本件府道西側の地域は、右私道の西端に金網の柵を施した椿本チエーン株式会社の運動場およぴ寮の敷地があって西方への通路がなく、北方および南方はいずれも幅員四ないし五メートルの水路により遮られており南方の水路沿いに東西に通じる幅員約1.8ないし3.3メートルの道路があるほかは本件私道が公路である本件府道に通じる唯一の道路であつて、右地域のほぼ中央を東西に通つており、私道より北側は、一部西端の住宅地を除き、工業地域としてほとんど会社や事務所等で占められ、南側は、西端の原告藤井建設の土地を除き、住居地域として大部分が住宅で占められ、右地域内にある南北道路はすべて本件私道に接続している。

三被告が昭和四七年三月下旬本件私道が本件府道と交差する地点の右私道内北側に本件歩道橋を設置したこと、右私道が右交差部分から西へ13.6メートルの区間において幅員が2.1メートル縮少される結果となつたこと、右私道が本件府道と交差する地点の南側角に大栄重量株式会社所有地の一部に属する原告ら主張のとおりの三角状の空地が存在することは当事者間に争いがなく、右事実に、<証拠>を総合すると、本件歩道橋設置の経緯について次のとおりの事実が認められ、<証拠判断・略>。

(一)  大東市は昭和四六年四月別紙第二図面記載のとおり本件府道の東側に同市立氷野小学校を新設したが、府道西側の本件私道の周辺地域はその校区に属し、右地域の児童は車両交通量の多い本件府道を横断して通学しなければならないため、右小学校開校前の昭和四五年九月三〇日大東市教育委員会から大東市長および同市社会課長宛に通学路における歩道橋および信号設置促進要望書が提出されたのをはじめとして、昭和四六年一月から二月にかけて、本件私道周辺の住民で結成されている同市氷野西自治会(陳情書署名者三三〇名)、校区々長、その他政治団体等から大阪府知事、大東市長等に対し、本件私道の東端付近に横断歩道橋の設置を求める陳情書、要望書が提出された。

(二)  そこで、被告の委任により大東市は氷野小学校交通安全対策に関し、同市の関係課長らによる調整会議、四条畷警察署およぴ被告庁枚方土木出張所との協議等を経て、氷野小学校開校の直前である昭和四六年三月一〇日、横断歩道橋が設置されるまでの間、これに替わる施設として本件府道と本件私道との交差点に電光式標識の横断歩道を設置することを決定し、同年四月一一日右設置工事を終え、ついで同年六月から、歩道橋設置のため用地の選定および取得の交渉に入り、右交差点西北角の土地を所有する北陽石鹸株式会社の会社敷地の一部など二、三の候補地につき用地として提供すべきことを求めたが、いずれも拒まれた結果、右会社の所有にかかる本件私道路敷地の一部につき右会社の承諾を得て無償提供を受け大東市長、被告庁土木課長、氷野小学校長らの現地視察を経たうえ、被告は同年一〇月、右私道路敷に西側の橋脚と昇降口を置き、本件府道東側の被告において買収し、大東市に譲渡した道路敷に東側の橋脚と昇降口を置く本件歩道橋の設置を決定し、被告庁枚方土木事務所により同年一一月三〇日架設に着工し、昭和四七年三月一四日架橋を完了した。本件歩道橋の設置に際し、被告は本件府道の交通状況については調査したが、本件私道につき右の調査は行つていない。

(三)  なお右設置工事につき被告は原告ら企業側の了承を得ていなかつたため、工事中の昭和四七年二月五日原告ら歩道橋設置反対企業から大東市に対し、歩道橋設置により本件私道への長尺物運搬用トレーラー(全長一二ないし一六メートル)の進入ができなくなるとの理由で工事中止、歩道橋撤去、移設の要求がなされたので、被告は右工事を一時中断し、同市社会課長北川清繁、同課防災係長生駒庄三らが右企業の代表者らと協議する一方、氷野小学校長、同小学校PTA会長、氷野西自治会長らとともに、本件私道南側の前記大栄重量株式会社に対し道路敷払張の協力を求めるなどしたところ、右会社としては、用地買収には応じないが、前記三角状の隅切部分を右会社が存続するかぎり確保して同所の通行を認める旨の回答がなされ、またこの間工事中止を憂慮し氷野西自治会一同から二八〇名の署名をもつて大東市長に対する歩道橋設置促進の陳情書が提出されたこともあつて、工事を続行し完了するに至つた。

四<証拠>を総合すると、本件歩道橋の構造、規模、設置状況、および付近の本件私道等の状況について次のとおりの事実を認めることができ、これを覆えすに足りる証拠はない。

(一)  本件歩道橋は橋長一九メートル、西端の昇降階段部分の水平距離各10.9メートル、二本の橋脚間の距離一八メートル、幅員(内側)1.2メートル、橋桁の高さ4.7メートルの規模で、別紙第一図面記載のとおり本件府道に架設されている。横断歩道橋一般の設置要領については、建設省道路局長通達により、その設置基準、設計指示が示されているが、一般にその幅員は1.5メートルないし4.5メートルで、地形の状況その他特別の理由によりやむをえない場合には1.2メートルまで縮少することができるものとされているところ、本件歩道橋はその西側の昇降階段部分が本件私道の道路敷にあるため右の特別の場合に該当し、同道路局長の通達にも違背しないものである。

(二)  本件歩道橋西側昇降口の基礎コンクリート部分北側はボーリング場タツキレーン(前記北陽石鹸株式会社がその後事業を変更したもの)の駐車場金網の縁石に近接しており、本件私道南側には前記三角状の空地から西方へ前記大栄重量株式会社のブロツク塀があつて、右昇降口付近における右駐車場縁石と右ブロツク塀との間の道路幅員は約6.78ないし7.09メートル(ただし、右ブロツク塀から北へ1.75メートルの位置にはブロツク塀に平行し同所の西方における既設の側溝の延長線として未設部分が存在するが、路道使用上の現状は、右側溝延長線にかかわりなくブロツク塀まで全部の幅員につき効用を有しており、将来もまた同様の使用が可能である。)。右昇降口基礎コンクリートの幅員は2.1メートルであつて、同所付近において、右私道全幅員のうち車両等の通行可能な残余部分の幅員は約4.5メートルである。

(三)  本件私道との交差点付近の本件府道にはコンクリート製分離帯(幅員約0.2メートル)による一応の歩車道の区分があり、西側歩道の幅員は約1.3メートル(歩道側端の幅員約0.63メートルの側溝部分を含む。)で、本件私道は右側溝の外側にT字型に接続している。前記タツキボーリング場東側の本件府道に面する部分は、右側溝から西へ約1.5メートルの幅員をおいた線の更に西方が同ボーリング場の敷地として使用されており、同様前記大栄重量株式会社東側の本件府道に面する部分についても、側溝から西へ約1.26メートルの幅員をおいた線にブロツク塀が設置され、その内部が敷地として使用されている。

(四)  本件歩道橋の西側の橋脚は前記タツキボーリング場敷地の東端線を南方にほぼ延長した線上付近に位置し、したがつて、車両が本件私道から府道へ左折進入する場合、前記歩車道の分離帯の存在を別とすれば、最少限右橋脚を避けその右側から転向しなければならない位置を占めることになる。東側の橋脚は府道東側端から約5.3メートル東方に位置しているが、右の位置に設置したのは交差点東南角に将来隅切をつけることを考慮したものである。

(五)  本件歩道橋設置位置の決定に際し、西端昇降口を府道内の前記歩道部分に設けることが話題となつたことはあるが、歩道の通行をほとんど遮る結果となることおよび技術的に問題があること等の難点があるため同所に設置する計画は当初から除外された。

五<証拠>によれば、本件歩道橋設置の前後を通じ原告らの事業用車両の運行状況について次のとおりの事実が認められ、これを覆えすに足りる証拠はない。

(一)  原告藤井建設は、前記建築請負業の遂行に関し建設資材の運搬を運送業者に委託し、右運搬のため三屯ないし一〇屯積のトラツクが本件私道を通つて同会社に出入しているが、業務に繁閑があつて、一か月のうち一週間ないし一〇日間全く右運送車両を要しない期間もあり、運行する日は通常一日に三回ないし一〇回程度の頻度で出入し、トラツクのほか、ときにはレツカー車を使用する場合もある。右車両の種類、通行頻度等の運行状況は本件歩道橋設置の前後を通じ格別の差異はなく、歩道橋設置後前記三角状の空地を利用して通行しているが、右設置前にも右空地は通行の用に供されていた。

(二)  原告前川工業所は、前記鉱山機械製造業の遂行に関し、部品の搬入、製品の搬出のため、四屯ないし五屯積トラツク(例えば幅員2.34メートル、全長8.22メートル)、一二屯積トラツク(例えば幅員2.38メートル、全長11.70メートル)のほか、ときには全長一四ないし一五メートルのトレーラーやレツカー車も使用するが、レツカー車は傭車料が高いためあまり用いていない。同原告としては貨物車として小さいトラツクを一台所有するのみであつて、他の右車両はすべて部品搬入側の車または傭車である。同原告が出荷する製品には重量五〇屯ないし六〇屯のものがあり、将来八〇屯ないし一〇〇屯の製品を作るべく計画しているが、現在右規模のものは製作されてはいない。本件歩道橋設置後、本件私道における同原告関係の前記車両の種類に応じた通行状態を観察した結果によると、四屯ないし五屯積トラツクが右私道から府道へ左折進入(北行)する場合には、府道中央線を超えて対向車線内に一時進入することになり、一二屯積トラツクが右同様に進行する場合には、あらかじめ前記三角状空地をも利用して府道に入り、府道対向車線外側の道路側溝付近につきあたり、一旦後退したうえ北行車線に復帰進入する運転操作が必要であり、レツカー車が本件私道から府道へ右折進入(南行)する場合、あるいは府道を北進してきた前記四屯ないし五屯積トラツクが右私道に左折進入する場合には、いずれも常に右空地を斜めに通行している。もつとも、トレーラーやレツカー車については、本件歩道橋設置前においても右空地部分を通行しなければ同所における転向は困難であつた。

(三)  原告清和包装は、前記包装事業の遂行に関し、材料の入荷および包装製品の出荷のため主として二屯あるいは四屯積のトラツクが本件私道を通行し同会社に出入していたが、前記日清製油株式会社からの直送品にかぎり11.5屯あるいは15屯積のトラツクで搬入されたこともあつた。同原告としては贈答品を扱うものであるため時期により繁閑があるが、歩道橋設置の前後にわたる昭和四七年一月から同年六月までの間における同会社への月間出入車両数は、二屯車につきオフシーズンの三七台からシーズンの八七台、四屯車につき同様四六台から四一八台であり、11.5屯車は、一二月には運行されておらず、多い月が一九台であり、一五屯車は用いられていない。歩道橋設置後は一五屯車の通行困難のため前記日清製油株式会社において同原告会社への搬入に同車を用いることを避け、また、11.5屯車の運転上、本件私道の出入に際し、一旦後退等による方向の転換を必要とすることになつた。同原告は前記のとおり昭和四八年三月より事業所を他に移転したが、現在の高槻倉庫における営業は、日清製油株式会社の利用する営業倉庫を兼ねている点で関連企業として合理的な面があり、同原告として従前の事業場を使用しないことは必ずしも本件歩道橋の存在のみがその理由ではない。現在右従前の事業場を倉庫として使用している前記和気紙器工業株式会社の運行する車両は二屯積トラツクが主体であつて、本件歩道橋が存在しても本件私道の通行上特に不便はない。

六<証拠>によれば、本件歩道橋の利用状況について次のとおりの事実が認められ、これを覆えすべき証拠はない。

(一)  本件歩道橋は、利用者数、本件府道の交通量等において前記通産省通達の設置基準に適合するものとして設置されたものであるが、大東市社会課の調査によると、一般人の本件歩道橋利用者数は約一八〇名とされ、設置当時の氷野小学校の調査によると、利用児童数約一一〇名であり、昭和四六年における氷野町三丁目付近の本件府道の交通量は、ピーク時において一時間につき、乗合、普通貨物、特殊自動車二一九台、右以外の自動車八二四台で、歩道橋設置前には付近の府道上で子供の交通事故例も数件あつて、立体横断施設が必要な状態であつた。

(二) 前記二に認定した本件私道を府道に通じる唯一の道路として利用している右私道周辺の地域において、住宅の建設は昭和四一年一一月ころから始められ現在に及んでいるが、右地域の住民により昭和四二年ころから結成されている前記氷野西自治会の住民数は、歩道橋設置の前後を通じて漸増し、ことに昭和四七年から昭和五一年にかけては倍増し、昭和五〇年七月当時の世帯数は約三八〇であり、これらの世帯から約三〇〇名の児童が氷野小学校に通学している。本件歩道橋の東側昇降口から約五二メートル東方に南面して氷野小学校の西門があり、さらにその東に正門があつて、本件私道周辺地域から本件歩道橋を利用する通学路が最短距離であり、右三〇〇名の児童の大部分が右歩道橋を利用しているとみられ、その他右地域の西側にある御領地区の児童の中にも利用者がある。ちなみに本件歩道橋以外に近傍において本件府道を横断すべき横断歩道は、北方約三一〇メートル、南方約一九〇メートルを距てた各交差点に設置されているが、その地理的条件からみて、右各交差点に歩道橋を設置し、本件歩道橋に代替しうるものではない。

(三)  本件私道周辺の地域はすでに事業所、住宅が密であつて子供の遊び場に乏しく、前記児童らのかなりのものが氷野小学校の東側にある公園で遊ぶためにも本件歩道橋を通行し、また、現在右地域の一般人のうち三分の一位が通行している。

七以上認定の事実により原告らの請求の当否を判断する。

(一)  原告らの所有にかかる前記各土地はさきに認定したとおり本件私道に面し、本件私道によつて本件府道に通じていることが明らかであるところ、本件私道は、その道路敷が個人の所有地であるとはいえ、公共性を有し一般公衆の通行の用に供せられている道路であるから、右各土地はそれ自体袋地にあたるものとは言いがたい。もつとも原告らは、本件私道が閉鎖された場合、原告らの所有にかかる右土地は袋地となるから、本件私道の部分につき、民法二一〇条の囲繞地通行権を有する旨および本件歩道橋の設置により、現に本件私道の一部(前記ボーリング場タツキレーンの所有にかかる道路敷)を使用しえないから、同条の囲繞地通行権に基づいて本件歩道橋の撤去を求めるというのである。ところで、原告らが右のように本件私道の一部を使用しえないため、原告らの所有にかかる右各土地を、その本来の用途に応じて利用することができないことを理由に、袋地による繞囲地通行権を取得するとしても、その位置範囲が右道路敷を含む本件私道全部に及び、その結果原告らが右通行権に基づき、被告において右道路敷上に設置した本件歩道橋の撤去を求めうるか否かは、原告らが右道路敷を利用しうることにより受ける利益(通路としての利用の必要度)と、右タツキレーンの利益ひいてはタツキレーンより右道路敷の使用許諾を得ている被告が右道路敷上に本件歩道橋を設置して右道路敷を利用することにより受ける利益(換言すると被告が本件歩道橋を設置した結果原告らにおいて右道路敷の利用をなしえないことにより受ける損害)とを比較衡量して決するのが相当である。これを本件についてみると、原告らは本件私道に面して各企業の事業場を所有し(ただし、原告清和包装は、前認定のとおり現在当該土地建物を他の企業に賃貸し使用させているが、土地建物の利用においてはみずから使用する場合と同様に解して差支えないと考えられる。)、右私道を本件府道に通じる事業用車両等の唯一の通路として利用しており、被告は府道の立体横断施設として本件歩道橋を架設し、府道交通の円滑と、学童をはじめ付近住民の府道横断に利用させ、その安全をはかつているので、右両者の利益を比較衡量しなければならない。

(二)  原告らの運行する事業用車両は数種あるが、使用台数および頻度からみて主たるものは五屯積前後までのトラツクであると考えられ、本件歩道橋設置による本件私道の有効幅員の縮少ないし橋脚の存在等は、残存幅員および橋脚の位置等からみて、これらのトラツクの運転に関し多少の不便を与えるとはいえ、歩道橋の存在がその通行を妨害する程度にまでは至つていないものというべきである。

(三)  そこで、いわゆる長尺物、重量物の運搬についてみるに、本件私道の残存有効幅員自体は、大型トラツク、トレーラー、レツカー車の車幅に足りるが、右各車両は府道との交差点において右折等の転向をなすに際し、歩道橋設置前に比較しその通行がある程度制約を受け、運転操作にも影響を与えていることは明らかである。しかしながら、歩道橋設置の前後を通じ、転向に際しては大栄重量株式会社所有土地の一部隅切による三角状の空地部分が通行に利用されているので、このような利用状態を前提とするならば、右空地の位置や広さからみて歩道橋の存在による影響はそれ程大きといは言えない。右空地が特定法人の所有であるかぎりこれが閉鎖される場合もあると考えられ、右空地の利用を除外した場合には右各種大型車両の転向操作がかなり困難になることが推認されるとはいえ、通行不能を招来するか否か、また、右車両にとつて空地の利用が歩道橋の存否にかかわらず必須であつたものか否かは、本件においてこれらの事実を証する証拠も存しないので、必ずしも明らかであるとは言いがたい。また、かりに本件歩道橋の設置により転向に際し従来より以上に複雑な運転操作を余儀なくされ、そのため本件府道における他の車両の交通に一時渋滞等の支障を来たすことがあるとしても、各原告における右大型車両の運行台数および頻度にてらし、その影響は散発的なものであつて、立体横断による府道交通の円滑化を勘案すると右の一時的な支障を特に重大視することはできず、他面、大型車両運行の困難性のゆえに原告らの企業活動が危殆に瀕することを認めるに足りる証拠も存在しない。

(四)  氷野小学校の位置、校区、通学路、学童その他一般人の本件歩道橋利用状況および本件府道の交通量と付近の他の横断施設等を総合すると、本件歩道橋の必要性に併せその設置位置として本件私道との交差点付近が最も適当であると考えられる。これを前述の原告らの事情に対比するとき、歩道橋の必要性自体については必ずしも原告らの利益と対立するものではなく、問題はその設置位置にあつて、少くとも橋脚および昇降口が本件私道敷内に存在しないことが望ましいことは言うまでもない。しかし、右橋脚、昇降口を本件府道西側の歩道部分に設置することは、歩道をほとんど閉塞し、また、技術的にも困難であり、本件において、歩道橋の現在の効用を確保しつつ設置位置の変更が可能であることを認めるべき資料は存在しないから、代替位置が容易に認められない以上、現在の設置位置を前提として本件歩道橋の必要性を論じるほかなく、原告らの前記各事情をもつて右必要性にまさるものということはできない。

(五)  なお、設置位置に関し、原告らは被告において土地収用法の活用をなすべきものと主張するが、前掲山中、北川の各証言によれば、従来歩道橋設置のため同法を活用した事例はなく、本件においても設置箇所の選定に際し右の点に関する話は全く出ていないことが認められ、これに反する証拠はないのみならず、同法による強制力を行使してまで本件私道上の構築を避けるべき原告らの利益の優位を認めることはできない。

(六) 原告らは、本件私道有効幅員の縮少により建築基準法所定の四メートルの道路幅員に満たなくなることは許されない旨主張するが、本件において歩道橋により縮少された私道の残余の通行可能幅員は前記四、(二)認定のとおり約4.5メートルであつて4メートルを超えるものであるから右の主張は理由がないのみならず、同法の規定は、事業に応じ通行権を認める範囲の事情として考慮することを相当とする場合もないでもないが、これをもつてただちに通行権の内容ないし根拠を構成する基準とみることはできないから、かりに本件私道の側溝南縁の線までを有効幅員とし、それが四メートルに満たないとしても、前記の判断に消長を及ぼすものではない。また、原告ら主張の大阪府開発許可運用基準、大東市開発指導要綱にいう道路幅員は、本件私道の当初からの幅員にてらし、本件の事情として考慮するには適切でない。

(七)  原告らが通行権の制限につき憲法違反として述べるところは歩道橋の撤去を求める本訴請求において法理上根拠がある主張にはあたらず、単に原告ら側の事情の一を述べたものと解される。

八以上により、原告らの請求はいずれも理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(西内辰樹 松本克己 前田順司)

目録、図面<省略>

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